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霧笛が俺を呼んでいる…第12回

歌声喫茶・蓮の店内は静かなものだ。グループ客が変えると、他の客をウエイトレスにまかせて、ママが俺たちのボックスに来た。
「おふたりお揃いで、シャンソンでもお歌いになりたいのかしら、それとも懐かしいレコードが聞きたいのかしら」
婉然とした笑みと言うのがこう言うものなのだろう。年齢の判りにくい容貌だ。大きな瞳、豊かな髪、白すぎるほどの皮膚。ハーフだと言われても信じただろう。
藤村も微かに気圧された雰囲気だ。「岩船さんと親しい女性なら新顔としてご挨拶でもと…ね、殊勝にもそう考えたのさ」それでも藤村はすぐに気分を整えてそう言った。
俺はなんとなく彼女の手首の時計とブレスレットを見ていた。特に凝った様子のないものだが、どうして身につけている装身具は合計すれば軽く1千万近くなるはずだ。アンティークの逸品ばかりだ。それを見事にコンディションを修正している。かなりの額がかかったはずだ。趣味は良い。1930年代のテイストで統一している。
それを、ただの古ぼけた骨董趣味に見せないだけの服の選び方を知っているし、外国暮らしをしたと思しい仕草が独特の雰囲気を醸し出している。
「香月さん…と呼ぶのも妙だな。やはりママと月並みに呼ぶ方がいいようだ。俺と藤村は岩船さんの…そうスタッフに鳴ったと言う訳だ。この間は話す機会も無かった。岩船さんが何んと話したかは知らない。暫く…たぶん暫くの間仕事を一緒にやる事になった」
「久我…さんでしたわね。岩船は上機嫌でしたよ。久しぶりに面白い、と。こうも言ってた、幹部候補生か…それとも俺にとどめを刺すのか、彼らとの勝負だ…って」
「なるほど、組織の誰もが知らない岩船さんを知っている。そう言う事か」俺は藤村を見た。
藤村もママのものごしと、会話から逆に岩船の真の性格を測っているのだろう。
「あ、そうそう。カーク高階。彼は岩船がいのちを助けて函館に連れて来たの。だから彼にとって岩船は何よりも、誰よりも大事な存在なのよ」
「だから、岩船のさわりになりそうなものは、事前に処理するの。岩船がどう思っているか…と言うよりも彼がそう感じればね。彼が本気になると怖いのよ。それなりに子飼の子分たちも持ってるし…」
なるほど、岩船の人間に接して感じた違和感はある程度当たっていたらしい。だからと言って何かが変わるものでもない。
「そう。今度船が来るそうね。その時、お客様を案内して城戸と言う男が帰って来るは。ジョーとはそりが合わないタイプの男よ。彼は別な意味で怖いわよ。」
俺はひっかかりを感じた。城戸…か。ジョーとは合わない…つまりは相当な悪党ってわけだ。
「挨拶は済んだな。レコードも時には聴くが、だからって歌いたいわけじゃない。久我、行こうか」
藤村も何かを確信したらしい。だが、こいつもそれで行動が変わる訳じゃない。
俺は繭子の残したものでもうひとつ知りたい事があった。
カメラバッグの女が知っているのか、それとも浅部がまだ隠しているのか。その誰もが知らない事がまだあるのか。
船が来るまで時間はそれほどない。

はい、今回はここまで。浅部が手に入れた4年前の謎のロシア船員の写真。それは何を差し示すのか。
はい、面白いですね。いゃー、いい加減な小説ってほんとに良いですね。
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テディ・グレイ

Author:テディ・グレイ
テディです。団塊の世代ど真ん中と言うヤツですね。つまりはジジイなんです。好き勝手な、発作的な、唐突な話題を展開するとおもいます。面白がって頂ければ幸いです。オブジェ制作・写真撮影・雑文界がなどが趣味的仕事です。冗談の好きですが、冗談は人生だけにしとけ…と言われる、そんな人格です。
成熟した大人の部分はほとんどありません。ガキのまんま、年だけ食ってると言う始末の悪いタイプです。
外面は良いのです。と、言って特別ワルい性格でもありません。
ともかく、よろしくね。

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